2026/10/02

川崎まちづくり考~序3:街並みは、どこから始まるのか?

こんにちは。アトリエアイズ代表・管理建築士の今井博康です。

前回の序2では、二つの提案資料をもとに、一つの建物がまちを変えることを見てきました。そして、まちを変えるのは建物の用途ではなく、設計の提案であると書きました。

変える力があるからこそ、設計者はその力に責任を負います。では、その判断の手がかりは、どこにあるのでしょうか。

今回の問いは、これです。街並みは、どこから始まるのか?




街並みをつくる、四つの関係

では、街並みは何から始まるのでしょうか。私は、少なくとも四つの関係から始まると考えています。

道との関係 道の幅、曲がり方、建物と道との距離。道は、まちの中で最も長く残る骨格です。建物が建て替わっても、道の形は何十年、何百年と受け継がれていきます。

地形との関係 坂、川、台地、低地。土地の起伏は、道の通り方も、建物の並び方も決めてきました。川崎でいえば、南の臨海部の低地と、北の多摩丘陵とでは、まちの成り立ちがまったく違います。

隣の建物との関係 高さ、軒の線、素材、間口のリズム。隣とどう並ぶかで、通りの表情は大きく変わります。

暮らしとの関係 店先のにぎわい、朝夕の人の流れ、歩く速さ。街並みは、そこで営まれる暮らしの時間とも結びついています。


人と地域をつなぐ建築設計

設計の図面には、敷地境界線が引かれます。しかし、それは土地の権利を分ける線にすぎません。通りを歩く人に、敷地境界線は見えません。見えているのは、道と、隣の建物と、その間に建つ新しい建物の姿です。

だから設計は、敷地の内側から始めるのではなく、敷地の外を読むところから始まります。

序2で紹介した提案資料で、計画建物だけでなく、両隣の建物や通りを歩く人まで描いたのは、そのためです。建物を描くことは、その建物が加わる街並みを描くことでもあるのです。人と地域をつなぐ建築設計。それが、アトリエアイズの設計の考え方です。

建物は、そこで過ごす人と、その地域とを結ぶ存在でありたい。だから私たちは、敷地の中を考える前に、まず地域を読むことから設計を始めます。


まちの「なぜ」を読む。古民家を読むように。

文化財や古民家に向き合うとき、私たちは常に問いかけます。なぜこの形なのか。なぜこの寸法なのか。なぜこの納まりなのか。


まちにも、同じ問いを向けることができます。

なぜこの道は、ここで曲がっているのか。 なぜこの通りの建物は、この高さで揃っているのか。 なぜここには、昔から店が並んでいるのか。

古民家が長い時間の中で選ばれ、残されてきた建築であるように、街並みもまた、時間の積み重ねの中で形づくられてきたものです。その理由を読み解かずに、新しい建物を加えることはできません。


■ まとめ

街並みは、道、地形、隣の建物、そして暮らしとの関係の中から始まります。一つの建物がまちを変えるのは、その関係を変えるからです。

だからこそ、設計は敷地の外を読むことから始まるのです。


序章の三回では、川崎のまちで何が起きているのか、一つの建物がまちを変えること、そして街並みが関係から始まることを考えてきました。

次回からは、いよいよ川崎のまちそのものを読んでいきます。最初に向き合うのは、このまちの最も古い層、東海道の宿場町として始まった川崎です。

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