2026/09/25

川崎まちづくり考~序2:一つの建物は、まちを変えるのか?

こんにちは。アトリエアイズ代表・管理建築士の今井博康です。

前回の序1では、川崎がいま、南の臨海部から北の丘陵部まで、大きな転換点を迎えていることを見てきました。産業が入れ替わる臨海部、玄関口が変わる川崎駅、短い時間で塗り替わった武蔵小杉。大きな計画が、まちの骨格を描き直そうとしています。

けれど、実際の街並みをつくるのは、その上に建つ一つひとつの建物です。

今回の問いは、これです。

一つの建物は、まちを変えるのか?

答えは、変えることができる、です。


建物は、通りの一部として建つ

建物は敷地の中に建ちます。しかし、その姿を日々目にするのは、通りを歩く人です。外装の色、高さ、素材、開口部、看板。そのすべてが、通りの表情の一部になります。一棟の建物が建て替わるだけで、通りの印象が変わる。人の流れが変わる。夜の明るさが変わる。

建物は、敷地の中だけで完結する存在ではありません。

まちの中で、建物を描く

アトリエアイズでは、建物を提案するとき、建物だけを描くことはしません。

両隣の建物、通りを歩く人、電線、看板、そして空。実際の街並みの写真に計画建物を重ね、通りの中でその建物がどう見えるのかを描きます。

ここで紹介するのは、15年ほど前に作成した二つの店舗の提案資料です。


街にたたずむ建築

一つ目の提案は、商店や中層のビルが並ぶ通りに計画したものです。


外壁には暖色のレンガ調の素材を選び、高さは隣に並ぶ建物のスケールに揃えました。歩く人の目線の高さには水平の庇を通し、その下をガラス面として開いています。派手な主張で目立つのではなく、通りの一部になることで、通りに温かみを加える。溶け込みながら、まちを変える提案です。

「街並みに溶け込む」という言葉は、建築の説明でよく使われます。けれど実際には、存在感が希薄なだけの建物を指していることも少なくありません。

色を抑え、形を消し、目立たないようにする。それは溶け込んでいるのではなく、まちに対して何も語っていないだけです。「溶け込む」は、消えることではありません。通りのスケールやリズムを受け継ぎながら、通りに新しい表情を加えること。そこに、まちを変える力が生まれます。

対比による街の表情

二つ目の提案は、年季の入った低層の商店が続く通りに計画したものです。



色は銀と黒に絞り、金属の縦横のルーバーで壁面を構成しました。左右対称の正面性によって、通りに一つの「顔」をつくっています。派手な色や電飾ではなく、素材と構成で存在感をつくる。周囲と対比させながら、通りに緊張感と品格をもたらす提案です。

まちを変えるのは、建築用途ではない

溶け込ませるのか、対比させるのか。何を受け継ぎ、何を加えるのか。それを決めるのは、建物の用途ではありません。設計者の判断であり、その判断を形にした提案です。

まちを変えるのは、建物の用途ではない。 設計の提案です。

変える力があるからこそ

一つの建物がまちを変えるなら、設計者はその力に責任を負います。目立てばいいわけではありません。溶け込めばいいわけでもありません。その通りに何があり、どんな人が歩き、どんな時間が流れてきたのか。それを読み取らずに、まちにふさわしい提案はできないのです。


■ まとめ

一つの建物は、まちを変えます。

だからこそ、設計は敷地の中だけで考えるものではありません。建物を描くことは、街並みを描くことでもあるのです。

では、街並みはどこから始まるのでしょうか。次回、序3「街並みは、どこから始まるのか?」で、この問いを考えます。

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COMMUNICATION BUILDING
人と地域を紡ぐ建築設計
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川崎市・横浜市・鎌倉市に拠点があり、多彩な実績と専門性で、日々の暮らしとまちづくりを支えています。

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